この世界はプログラム ── デミウルゴスの罠

水たまりに映る歪んだ街並みと人影。反転した世界が現実と幻想の境界を曖昧にし、異質な雰囲気を漂わせている。私たちが見ているこの世界は、本当に本物なのか?

 

◆ 封印していた感覚との再会

物事の奥にある構造や意図を理由もなく瞬時に読み取ってしまう──その深さゆえの生きづらさが、私の原体験にはあった。

成長するにつれ、論理的な思考を重視する環境に身を置き、いつしかその直感に背を向けて生きることを選んだ。

しかし、ある出来事をきっかけに、私は再びその扉を開かざるを得なくなった。

15年以上前、急な体調不良により仕事の継続が難しくなった。

通勤中のパニック発作、数週間でPCを2台も破損——。もはや働き続けることは不可能だと悟り、休職を決断した。

毎日のように悪夢を見て、ついにはベッドから起き上がることも難しくなった。

様々な病院で検査を受けても原因は不明。漢方医や鍼治療などの東洋医学にも頼ったが改善せず、最終的に代替医療に行き着いた。

「長年セラピストをしているけど、こんなにエネルギーが枯渇している人は見たことがない。あなたはスピリチュアルの世界に向いている」と言われ、ヒーラーを紹介された。

当時、ヒーリングによって症状の改善はなかったが、特別なエネルギーをはっきりと感じ取ることはできた。そこから、病気を治すための「怪しい世界」での学びが始まった。

 


◆  占星術をセオリー通りに実践し、リアルな効果を検証できた5年間

8年以上様々な学びを重ねたが、最後まで手をつけなかったのが占星術だった。「堅苦しそう」というのがその理由だった。

しかし、治療ミスや誤診が連続して起きたことから、私はハーフサムという手法に興味を持つようになった。

これは二つの天体の中間点を解析する占星術の技法である。

特にドイツの占星術家ラインホルト・エバーティンは、医学的応用に関心を持ち、実際に外科医グループの協力を得ながら、手術の結果や病気の予後との相関を研究した。

さらに著名な占星術家の鑑定を受けても、私の出生図をわかりやすく解読してもらえなかったことから、やむを得ず自分で学び始めることにした。

 


◆   なぜ占星術が当たるのか?(宇宙の法則と集合意識)

「占星術は未来を予言するものではなく、人間の行動パターンを体系化したもの」である。

多くの人が無意識に宇宙の法則に従って生きているからこそ、占星術が当たる。これは量子力学的にも「信じたものが現実化する」原理とリンクしている。

占星術は日本人が思う以上に、特に欧米では絶大な支持を受けており、占星術学会には学者や有名大学教授など知的な層が名を連ねていることも知った。

例えば、自己理解や内省を深める心理占星術は、コーチングのようなアプローチを取り入れており、人生の選択や人間関係の改善に活用されている。

また、金融占星術は市場の動向を予測し、投資戦略に組み込まれることもある。さらに、医療占星術は体質や健康傾向の分析に用いられ、医療や代替療法の分野でも注目されている。
 
『本当に当たるのだろうか?』――

その純粋な好奇心から、私は占星術の時期表示を5年以上にわたって検証し続けた。

行動のタイミングを決めるときは、主要なトランジットだけでなく、月のトランジットまで細かくチェックしていた。 

まるで市場分析をするかのように、運気の波を読みながら過ごした5年間だった。そしてその過程で、先の記事で述べたような思いがけない恩恵を受けることとなった。

 

 

◆   デミウルゴスの罠:占星術の限界と超える方法

グノーシス主義では、「至高神(真の神)」とは別に、「デミウルゴス(偽の神)」が存在するとされる。

デミウルゴスは完全なる世界の模倣として物質世界を創造したが、それは不完全であり、人間を束縛するためのものだった。

「この世界は偽物かもしれない」——

このテーマは、古代から多くの思想家によって考察されてきた。グノーシス派の教えによれば、デミウルゴスは魂を閉じ込めるためにこの世界を創り、その一環として「運命」という概念を作り出した。

占星術もまた、その枠組みの一部だというのだ。

星の配置によって人生の流れが決まり、私たちは「宿命」の中で生きることを余儀なくされる。この構造こそが、デミウルゴスのプログラムに組み込まれたものだとされる。

東京大学の大田俊寛氏は、「グノーシス主義の神話は、世界の構造を模倣として捉え、デミウルゴスが魂を束縛する仕組みを作り上げた」(OHTA, 2001)と指摘している。

また、「デミウルゴスはプレーローマ界の『模倣』として物質世界を創造した。しかし、それは本来の神聖な世界とは異なり、人間を束縛するためのものだった」(同上)とも述べている。

もしこの考えが正しいならば、私たちが「運命の流れを読む」こと自体が、この偽のプログラムを強化する行為になってしまう可能性がある。

この考え方は、現代の「シミュレーション仮説」にも通じるものがある。

AI研究や量子力学の分野でも、「私たちが生きているこの現実は、計算されたプログラムのようなものではないか?」 という問いが投げかけられている。

もし、この世界が「偽の創造主」によるシミュレーションであり、占星術はその中のコードの一部であるとしたら?

それを知りながらも、なお「星の影響に従うべきなのか?

私は子供の頃、言葉のいらない世界に触れることがあった。 目を閉じると、いつの間にか別の次元にいて、すべてを瞬時に理解できた。だが、成長するにつれ、その感覚は薄れていった。

グノーシス主義が「魂は本来、より高次の世界に属している」と説くように、私たちもまた、何かを思い出す必要があるのかもしれない。

 

◆   まとめと次回予告

今後、人生は新たなフェーズに入る。占星術を実践し、これまでにも多くの恩恵を受けてきた。

しかし、これが本当の恩恵なのか、それとも序章に過ぎないのか——2年後、そして10年後に、その答えが見えてくるはずだ。

やり尽くし、納得した上で、次第に人から求められて実占するうちに、『この方法では解決できない問題がある』と感じるようになった。

そして、より本質的な変容のため、次のステージへ進むことを決意した。

私自身の経験を通じて、占星術の活かし方や、その先にある可能性についてお話ししたい。『運命を超える』ためのヒントを、次回の記事でお伝えしようと思う。

 
📚 参考文献
Ohta, T. (2001). Gnosticism, the Mythology of Imitation. The University of Tokyo.
Retrieved from https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/30582/files/rel01805.pdf
 

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