ベルギーの首都、ブリュッセル近郊に広がる「ハルの森(Hallerbos / Bois de Hal)」では、4月中旬になると一面がブルーベルの花で覆われ、青い絨毯を敷きつめたような幻想的な光景が広がります。
ときおり雲間から陽が差し込むと森の空気がふわりとやわらぎ、
ブナの幹が落とす影と若葉を透かした光が、揺れるような色彩を映し出します。
淡い青から深い紫へ──森は静かに色を深め、やがて夢のような風景へと姿を変えていきます。
風が通り過ぎるたび、どこからともなく花の香りが漂い、思わず足を止めずにはいられません。
木漏れ日がやわらかく降りそそぐ森の中では、小鳥のさえずりや虫たちの声が静かに響き、春の息吹を弾むように届けてくれます。
足元を覆うブルーベルの絨毯、目の高さでそよぐ若いブナの新芽、見上げれば太い幹がまっすぐ天を仰ぐように伸びている。
手入れの行き届いた森は、まるで静かな神域のように、やわらかないのちの兆しを抱きとめていました。
奥へと歩みを進めるほどに呼吸は自然と深まり、自分の輪郭が森の中へと溶け込んでいくような気がします。
この森は、光と影、花の香り、そして生きものたちの息遣いまでもが絶え間なく物語を紡ぐ場所。
春の光に包まれながら人々は静かに季節の巡りを祝い、変わらぬ恵みを与え続ける森に、そっと感謝を捧げているかのようでした。
ハルの森(Hallerbos / Bois de Hal)は、センヌ川(Senne)と緑の深いソワーニュの森(Forêt de Soignes)の間に広がる、ベルギーでも有数の美しい森林地帯です。
春のブルーベルだけでなく、そびえ立つセコイアの木々も、この森ならではの景色を作り出しています。日本の森で神聖さを感じるときと同じような、静かな敬意が心に広がりました。
動画ではブルーベルの美しい群生とともに、ハルの森に響く自然の音もそのまま収めました。
撮影地:Hallerbos / Bois de Hal(ハルの森・ベルギー)
※ブルーベルのクローズアップ写真は、写真家 Yoksel Zok 氏の作品(Unsplash より)をお借りしています。一瞬の静けさを映しとった一枚に、心より感謝を込めて。
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